文章エッセイ

愛のボリウッドダンス

Photo by pavan gupta on Unsplash

私はマルチタスキング派だ。

例えば家事をするにしても、お皿を洗うだけの時間がもったいないと感じるため、ドラマや映画を観たり、音楽を聴きながらするタイプなのである。

しかしながらごく稀に、タスクだけに集中することもある。

その日も本当に理由なく、黙々とお皿洗いだけしていた。

ジャピはそんな私に気づくと、たいそう驚いた様子でこう言った。

「やばいやばい・・・」

何がそんなにやばいのか。

「ボクがエンターテインしてあげないと!」

そう言うと、いきなり立ち上がり、Youtubeを再生し始めた。

ジャピが最近ハマっているボリウッドダンスだ。

正確に言うと、ボリウッドダンス風味のエクササイズダンスである。インド人のインストラクターが3人いて、それぞれにダンスが苦手、そこそこ、得意な人向けのバージョンを披露してくれる。(とても親切だと思う)

ジャピは一時期狂ったようにこの曲を踊ってたので、今やノールックで踊れる。

ジャピは、皿洗い以外に何もすることがない私のために、ボリウッドダンスを踊り始めた。

顔も体も、私の方を向いて踊ってくれている。

正直、別にいいよ?と思わなかったわけでもないが、やっぱり気持ちが嬉しい。

最初は私もノリノリで見ていたが、数分経つとある疑問が生まれてきた。

これ…いつまでやんの?

ジャピが真っ直ぐ私を見続けながら踊るもんだがら、私だって目を離すわけにはいかない。

ジャピがおどげたムーブをかまそうもんなら、私だって合いの手を入れたり、掛け声をかけるなり、なんらかのアクションを取らないと不公平だろう。

しんどい。

お皿を洗う手がほとんど進んでない。

私は動画に表示されているダンスの残り時間をちらっと確認した。

まって、あと10分もあるんだけど!?

愕然とした。

ダンスは全部で15分だから、5分が経過したわけだが、5分でこの消費カロリー(内面)はちと厳しい。

かといって、優しさ100%のジャピに向かって、もう踊らなくていいよ、とストレートには言いづらい。

「あー…まぁ…ねっ!ホント、ありがとねー…」

頼む!「ありがとねー…」の「ねー…」の消えゆく儚さから何かを感じ取ってほしい!

私の想いをよそに、ビンビンにダンスを続けるジャピ。

私が次に取ったのは、この汚れしつこいな作戦だった。

「…ッツァー!ちょっとこれは集中しないと…だな〜」

これで視線をジャピからシンクに移すことに成功した。

したのだが、なんとなくジャピからの圧力を感じる気がする。

まだこっちを見ながら踊っているのだろう。

耐えろ自分…このままお皿洗いに集中して逃げきれ…!

あとは罪悪感との戦いである。

ジャピはきっと私が視線を戻すのをじーっと待っている(気がする)。

いや、この鍋にこびりついている汚れが落ちなくて…ね?

しきりにツァーツァー言っている私を見てなんかを感じたのか、

ジャピがこっちを見ている気配がなくなった。

少しだけ視線を戻してみると、ジャピはもうパソコンの方を向いて踊っていた。

私の胸は罪悪感でキューっとなった。

ジャピが私に向けてボリウッドダンスをしてくれたのは、

退屈している私を楽しませてくれようと、

他でもなく愛情からの行為だったのに。

ごめんね、ごめんね、ものの5分で飽きてごめんね。

でもねジャピ、

もしジャピが私の立場だとしても

5分で飽きてたと思うんだ。

  • この記事を書いた人
とぼけた顔の女性

ばゆぴ

はじめまして、ばゆぴです。 NZ人の夫との国際結婚の日常を漫画と文章でゆるっと発信中。

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