私はマルチタスキング派だ。
例えば家事をするにしても、お皿を洗うだけの時間がもったいないと感じるため、ドラマや映画を観たり、音楽を聴きながらするタイプなのである。
しかしながらごく稀に、タスクだけに集中することもある。
その日も本当に理由なく、黙々とお皿洗いだけしていた。
ジャピはそんな私に気づくと、たいそう驚いた様子でこう言った。
「やばいやばい・・・」
何がそんなにやばいのか。
「ボクがエンターテインしてあげないと!」
そう言うと、いきなり立ち上がり、Youtubeを再生し始めた。
ジャピが最近ハマっているボリウッドダンスだ。
正確に言うと、ボリウッドダンス風味のエクササイズダンスである。インド人のインストラクターが3人いて、それぞれにダンスが苦手、そこそこ、得意な人向けのバージョンを披露してくれる。(とても親切だと思う)
ジャピは一時期狂ったようにこの曲を踊ってたので、今やノールックで踊れる。
ジャピは、皿洗い以外に何もすることがない私のために、ボリウッドダンスを踊り始めた。
顔も体も、私の方を向いて踊ってくれている。
正直、別にいいよ?と思わなかったわけでもないが、やっぱり気持ちが嬉しい。
最初は私もノリノリで見ていたが、数分経つとある疑問が生まれてきた。
これ…いつまでやんの?
ジャピが真っ直ぐ私を見続けながら踊るもんだがら、私だって目を離すわけにはいかない。
ジャピがおどげたムーブをかまそうもんなら、私だって合いの手を入れたり、掛け声をかけるなり、なんらかのアクションを取らないと不公平だろう。
しんどい。
お皿を洗う手がほとんど進んでない。
私は動画に表示されているダンスの残り時間をちらっと確認した。
まって、あと10分もあるんだけど!?
愕然とした。
ダンスは全部で15分だから、5分が経過したわけだが、5分でこの消費カロリー(内面)はちと厳しい。
かといって、優しさ100%のジャピに向かって、もう踊らなくていいよ、とストレートには言いづらい。
「あー…まぁ…ねっ!ホント、ありがとねー…」
頼む!「ありがとねー…」の「ねー…」の消えゆく儚さから何かを感じ取ってほしい!
私の想いをよそに、ビンビンにダンスを続けるジャピ。
私が次に取ったのは、この汚れしつこいな作戦だった。
「…ッツァー!ちょっとこれは集中しないと…だな〜」
これで視線をジャピからシンクに移すことに成功した。
したのだが、なんとなくジャピからの圧力を感じる気がする。
まだこっちを見ながら踊っているのだろう。
耐えろ自分…このままお皿洗いに集中して逃げきれ…!
あとは罪悪感との戦いである。
ジャピはきっと私が視線を戻すのをじーっと待っている(気がする)。
いや、この鍋にこびりついている汚れが落ちなくて…ね?
しきりにツァーツァー言っている私を見てなんかを感じたのか、
ジャピがこっちを見ている気配がなくなった。
少しだけ視線を戻してみると、ジャピはもうパソコンの方を向いて踊っていた。
私の胸は罪悪感でキューっとなった。
ジャピが私に向けてボリウッドダンスをしてくれたのは、
退屈している私を楽しませてくれようと、
他でもなく愛情からの行為だったのに。
ごめんね、ごめんね、ものの5分で飽きてごめんね。
でもねジャピ、
もしジャピが私の立場だとしても
5分で飽きてたと思うんだ。