文章エッセイ

哀しきお片付け

私たちがニュージーランドにいた頃、それはもう小さな部屋に住んでいた。八畳一間ほどのスペースに、2人で肩を寄せ合いながら暮らしていた。

そんな状況で十分な収納スペースがあるはずもなく、モノが増えてきたタイミングで一度断捨離をしようということになった。

ベッドの上に、3つの箱が置かれた。

右側には、必要なものを入れる箱。

左側には、不要なものを入れる箱。

そして真ん中には、迷っているものを入れる箱。

私たちは黙々と作業を進めていった。

ふと、棚の奥に、綺麗な色の布が仕舞われていることに気づいた。

それは、巻きつけて腰のあたりで紐を結ぶタイプのスカートだった。

「わ、これ懐かしい!

そうだ、ジャピが私の誕生日にくれたんだ…!」

エキゾチックな雰囲気を醸し出すそのスカートは、鮮やかな橙色をしていた。素敵なスカートに違いはないのだが、棚の奥底に仕舞われていたのには、ちゃんと理由があった。

「模様は綺麗だけど、紐で結ばなきゃいけないスカートだから、心許ないんだよなぁ」

そうなのだ。

スカート部分にあたる大きな面積の布の両端に細長い紐が付いており、腰付近で紐を結ぶつくりになっているため、この紐がほどけてしまったら社会的にジ・エンドなのである。

もらった後は嬉しくて、早速このスカートを履いてお出かけをしたものだが、あいにく強風で有名なウェリントンの洗礼を浴びることとなってしまい、橋の上で身動きが取れず小刻みで移動するという、なんとも情けない思い出があった。

今でこそ、「下に短パンでも履けば?」と思うが、当時はこのか細い2本の腰紐に私の尊厳を託す他に、発想がなかったのである。

そんな経験もあり、すっかり履くこともなくなっていたこのスカートをどうするべきかと悩んだ。

スカートを履いている間のヒヤヒヤ感は苦手だが、柄自体はとても綺麗で、色も好きだ。

それに何より、ジャピが誕生日にくれたことが嬉しかった。私に似合いそうな模様や色を一生懸命選んでくれたんだろう。

これをくれた時のジャピの顔を思い出す。

素敵だ、似合っている、可愛い…

曇りない眼で賛辞の言葉を浴びせてくれた。その時のジャピの、まるで赤ん坊を愛でるかのような優しい笑顔が頭をよぎる。

「なにより大事なのは気持ち…だよね」

私はスカートをぎゅっと抱きしめてにこりと微笑んだ。これは必要なものの箱に入れよう。大事な思い出が詰まっているもの。

くるりと振り向き、後ろの箱たちに目をやった。その時、私の目が、箱の中にきちんと畳まれている水色のヨガパンツを捉えた。

あれは確か…

それは、私がジャピの誕生日にあげたヨガパンツだった。普段の感謝を込めて、少し奮発して、多少値は張るが肌触りの良いオーガニックの生地を選んだ。パンツはいくらあっても良いだろうし、ゆったりした形なので部屋着としても着られるのでは、と一生懸命に考えてあげたものだった。

私の鼓動が高鳴った。

このヨガパンツの入っている箱は━━━━











━━━不要の箱だ








次の瞬間、私は持っているスカートを思いっきり振り上げ、不要の箱に勢いよくぶち込んでいた。もう気持ちとか思い出とかどうでもいい。

「せめて迷いの箱であれよ!」

立つ鳥跡を濁さずです!とでも言わんばかりにキレイに畳まれ、きちんと箱の中に収まっているのがまた憎たらしい。すでに出荷される気マンマンじゃないか。

落ち着いてから、ジャピになぜヨガパンツが不要になったのか聞いてみたところ、ポケットが無いのが微妙だったらしい。

ジャピは機能面を重視する傾向があり、あのヨガパンツは彼の合格基準に達しなかったのだ。

なーるほどね、なるほど…。ポケットが無いと家の鍵も入れられないしね…。

私はこの経験を経て学んだ。

プレゼントは

気持ちより

実用性

だということを。

そして今後は実用性を重視してジャピにプレゼントを選んで行くのだが、一筋縄で行かなかったのはまた別のお話…。

  • この記事を書いた人
とぼけた顔の女性

ばゆぴ

はじめまして、ばゆぴです。 NZ人の夫との国際結婚の日常を漫画と文章でゆるっと発信中。

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