文章エッセイ

ババア

いきなり物騒なタイトルである。

ある日、テレビを見ていたら、小さい子供がおばあさんに向かって「ばあば」と言っていた。

ジャピは不思議そうに、「『ばあば』は使っちゃいけない言葉なんじゃないの?」と私に尋ねてきた。


ははあ、「ばあば」と「ババア」を混同しているんだな、と私は思った。

私は「ばあば」と「ババア」が別物で、「ばあば」は親しみを込めて呼ぶものだよ、と教えてあげた。

ジャピは混乱していた。

そりゃそうだ、音的にはほとんど変わらないんだから。

私だって長年の経験でなんとか乗り切っているけれど、初耳だったら戸惑うだろう。

いずれ間違えそうだなとは思ったけれど、ジャピは私の祖母を下の名前で呼ぶし、これからも誰かを「ばあば」呼びする機会は無いだろうから、あまり気にしていなかった。

それから何日か経ったある日、スーパーから車で家に帰ろうとしていた時のこと。

ふと前の方を見ると、お年を召した女性が自転車で車道をフラフラと走っていた。

ともすれば車道側に倒れ込んできそうで、私は内心ハラハラしていた。

5m…3m…ちょうど私たちの車が彼女を通り過ぎようとした時、ジャピが言った。

「ババア、大丈夫かな」




時が、止まった。




なんで今ーーーーーーーーー!?

窓、全開だよーーーーーーー!!




なぜ見ず知らずのご老人を親しみを込めて呼ぼうとしたのか。

なぜわざわざ近づいてから言ったのか。

疑問は滝のように湧いてきたが、今はとりあえず誤解を解くことが先決だと考えた私は、

「ババアじゃなくて、ばあばね!」

と、自転車に乗っている女性に聞こえるように大声で言った。

その人にとってみたら、私たちは「ばあば」呼びできる立場では無いので、私の言っていることもまあまあトンチンカンなのだが、そこまで頭が回っていなかった。

私の肝は冷えたまま、車は何事もなく彼女の横を通って走り去った。

ジャピはババアとばあばの狭間で再び迷子になっていた。

考えてみれば、一瞬のことであったし、通り過ぎる際に多少の距離はあったので、90%この会話は聞かれていないと思うのだけれど、どうしても気になってしまう肝っ玉の小さい女である。

ジャピは今だにババアとばあばの違いが飲み込めていないため、今後も肝を冷やすことになるのかもしれないと思うと、少し気が重たい。

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とぼけた顔の女性

ばゆぴ

はじめまして、ばゆぴです。 NZ人の夫との国際結婚の日常を漫画と文章でゆるっと発信中。

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