文章エッセイ

1パン二鳥

鳥がパンをくわえている

Photo by Anna Storsul on Unsplash

ジャピはニュージーランドの出身である。

ニュージーランドは鳥の楽園と言われるほど鳥の種類が多い。

日常生活の中で数多くの鳥に出くわす。

そんな国で育ったからか、ジャピは鳥が大好きだ。

鳥に限らず、害獣を除く、動物全般が好きな心優しい青年なのだ。

そんなジャピが「一石二鳥」という四字熟語を知ってしまったら、嘆きに嘆くのは自明の理である。

「一つの石で二羽の鳥を仕留めるなんて!かわいそう!」

私としては「合理的じゃん?」と思ってしまうのが、心を失いつつある現代人みを感じる。



ジャピは少し考えて、「『1パン二鳥』はどう?」と聞いてきた。

確かに、平和的な解決策である。

鳥を二羽得られるのならば石でもパンでもいいのだから。

「わかった、じゃあ今後はそれを使うね。」

その後、何回かこの新しい四字熟語を使う機会があったのだが

「そうだね、一石に… あっ1パン!

1パン二鳥ね」

「いっせ…あー違う1パンだわ」

「いっせ……………ぱん、1パン二鳥ね」

シンプルに、慣れない。

こちとら人生の半分以上を一石二鳥とともに歩んできたのだから、一朝一夕で切り替われる訳がない。

しかも厄介なことに、一般の方との会話では一石二鳥を使うので、せっかく1パン二鳥に慣れてきても、脳がまたリセットされてしまうのだ。

私は安請け合いしたことを後悔した。

1パン二鳥との未来が描けない。

そもそも、変換点が前半二語内にあるのが大変よろしくない。

後半二語であれば、少なくとも1拍は余裕ができるので考える時間が生じる。

しかしながら、前半の「いっ」の間に次のムーブを決めなければいけないとなると、私のゆっくりめな脳神経の伝達を考えるといささか厳しい。

「っ」に来る頃には次の音の口の準備をしなければいけないため、実質的には「い」の一瞬で「せ」か「ぱ」を判別しなければいけないのである。野球じゃないんだから。

その後もしばらく1パン二鳥を口にしたが、1発で言い切ることはできなかった。

すまない、ジャピよ。

私の頭の回転が遅いために、今後も鳥に石を投げ続けることになりそうだ。

  • この記事を書いた人
とぼけた顔の女性

ばゆぴ

はじめまして、ばゆぴです。 NZ人の夫との国際結婚の日常を漫画と文章でゆるっと発信中。

-文章エッセイ